研究

私たちは、脳内の環境維持に欠かせないグリア細胞の機能に注目し、以下の研究を行っています。

  1. 小胞体ストレス応答についての研究
  2. アストロサイト活性化を制御する新規遺伝子についての研究
  3. 精神疾患とグリア細胞の異常の研究

以下、それぞれについて説明します。

1.小胞体ストレス応答についての研究

神経細胞は環境変化にきわめて弱く、例えば脳梗塞の際に、短時間で細胞死に至ると考えられています。一方、グリア細胞の一つアストロサイトはこの環境変化に対して強く、虚血環境でもかなり生き延びることが出来ます。

私たちはこのアストロサイトにおけるストレス応答に注目し、そのメカニズムを解析しました。そして、細胞内小器官の一つ小胞体がアストロサイトに於けるストレス応答の重要な場であり、小胞体におけるストレス応答がアストロサイトの生存・機能に極めて重要であることを見出しました。

現在、私たちは、小胞体ストレス応答の主要3経路のうち、特にATF6経路を中心に、解析を進めています。ATF6経路は分子シャペロンの発現などを介して小胞体環境の改善に役立つと考えられており、今後、本経路を利用することで、脳梗塞のみならず神経変性疾患で起こる神経細胞死を抑制できないか、と考えております。

2.アストロサイト活性化を制御する新規遺伝子についての研究

これまでの研究から、アストロサイトは単なる神経細胞の補助細胞ではなく、神経活動の調節や血流の制御を担い、障害時には脳環境の悪化に応答する極めて重要な細胞であることがわかってきています。

私たちは中枢神経系でアストロサイト特異的に発現する新規分化関連遺伝子Ndrg2 (N-myc downstream regulated gene2)が、マウスパーキンソン病モデルおよび患者脳において活性化アストロサイトに高発現することを見出しました(Neurochem. Int., 2011)。さらに、Ndrg2のノックアウトマウスを作製し脳損傷モデルを用いて個体レベルでの解析を行った結果、Ndrg2はIL-6/STAT3経路を介してアストロサイトの早期活性化に促進的に働き、炎症細胞の集積や神経細胞障害を制御していることを明らかにしました(J. Neurochem., 2014)。

これらのことは、Ndrg2を介してアストロサイトが、組織障害後の神経細胞死の制御に重要な役割を果たしている可能性を示唆するものです。現在、幾つかのマウス病態モデルを用いて、アストロサイトがNdrg2を介してどのように病態形成に関与するのか、その分子機構の解明を目指しています。

3.精神疾患とグリア細胞の異常の研究

統合失調症や自閉症などの精神疾患では、神経細胞だけでなくグリア細胞にも異常があることが報告されています。私たちはグリア細胞の発達異常が精神疾患の発症にどのような影響を与えるのかを研究しています。

これまでに、精神疾患に関係する遺伝子DISC1やその結合因子DBZが神経の発達に関与していることを明らかにしてきましたが、これらの因子が神経だけでなくオリゴデンドロサイトの発達に関与していることもわかってきました。現在も、培養オリゴデンドロサイトや疾患モデル動物を用いて精神疾患とグリア細胞の関係について研究を行っています。

研究室で使用している疾患モデル動物(マウス)

脳梗塞 中大脳動脈閉塞モデル、両側総頚動脈閉塞モデル
パーキンソン病 MPTP投与モデル、6-OHDA投与モデル
頭部外傷 Stab injuryモデル
海馬神経細胞死 カイニン酸投与モデル
筋委縮性側索硬化症 SOD G93Aトランスジェニックマウスモデル
多発性硬化症 MOG投与モデル
緑内障 視神経損傷モデル
自閉症 CD38ノックアウトマウス